私は睡眠障害のうちの一つ、ナルコレプシーに罹患しています。そのため、睡眠についてよく考えます。そして現在の研究成果や、「眠り」そのものについてなどの情報を探してしまうのです。
そんな中、非常に興味深いスピーチと遭遇しました。過眠勢だけでなく、睡眠に問題の多い現代人にはぜひ一読していただきたい内容です。20分のスピーチの上、内容を抜粋し難かったので長くなりました。そのため2回に分けて紹介します。
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目次
トーク内容まとめ (一部割愛 有)
Why do we sleep? | Russell Foster
人生と睡眠
引用まとめ
「蜜のように甘い眠りを存分に楽しめ」『ジュリアス・シーザ』/ シェークスピア
「おお眠りよ。安らかな眠りよ。自然の乳母であるお前を何故驚かせたりしようか」 『ヘンリー四世』第2部〕/シェークスピア
「眠りは黄金の鎖であり、健康と我々の身体を結びつけるもの」 トーマス・デッカー (エリザベス朝時代、劇作家)
上記から400年経つと眠りに関するトーンは変わってくる。
「眠りは 時間浪費の罪であり 原始時代からの負の遺産である」トーマス・エジソン(20世紀初頭)
1980年代
「眠りは弱虫のもの」マーガレット・サッチャー
「金は眠らない」『ウォール街』/ゴードン・ゲッコー
眠りについての意識
≪20世紀 私たちは眠りにどう対応しただろうか?≫
エジソンの電球を使い 夜を侵略し 闇を占領して、その占領下で私たちは眠りをほぼ病気のごとく扱った。眠りを敵としたのだ。
今でも せいぜい睡眠欲を満たすのがいいところで、最悪の場合 たぶん多くの人は眠りを ある種の治療が必要な病気と捉えている。眠りに関する無知は本当に根深い。
≪なぜ眠りを頭から追い払ったのだろうか?≫
それは寝ている間には 何もしていないように見えるから。だから眠りは時間の無駄なのだろうか? それは違う、眠ることは 私たちの生態上 本当に重要なことだ。 神経科学ではなぜそれが重要なのか 解明し始めている。
脳について
人が眠っているときも この脳は眠らない。 むしろ場所によっては脳の活動は 睡眠状態にあるときの方がより活発になる。
眠りは脳内の一つの組織から起こるのではなく、ある程度はネットワークによるもの。
≪視床下部の下にある組織の一つ、体内時計≫
体内時計によって私たちは いつ起きたらいいか いつ寝たらいいか分かる。 この組織の役割は視床下部、外側視床下部や 腹外側視索前野の 全ての部分と連携を取ること。これらが一緒になって、ここの脳幹まで投射を送る。脳幹は 前方位に指令を送り、大脳皮質を神経伝達物質で満たし、私たちを起きた状態にする。つまりは意識を与えてくれる。
眠りが起こるのは脳内で様々な相互作用がされた結果で、つまり眠りがオン・オフされるのは ここでの相互作用の結果なのである。
眠る理由
科学者の間では何十もの学説があるので、そのうちの3つについて紹介する。
1. 眠りは疲労回復 説
本能的なものである。要するに日中の活動で使い尽くしたものを、私たちは夜に回復し置き換え、再建する。
実際 こうした考え方は 2,300年ほど前のアリストテレスにまで遡る。 流行り廃りはあったが、今は有力になっている。
脳の中にある多くの遺伝子は 睡眠中だけオンの状態になり、それらは回復と代謝経路に結びついているとされる
→以上のことより、この回復説には十分な証拠がある。
2.エネルギー温存 説
消費カロリーを減らすために眠るというもの
夜に眠った場合と、夜起きて あまり活動しなかった場合を比較した結果。 眠ることで節約できたエネルギー消費は一晩で110カロリーである(ホットドッグのパンと同じカロリー)
→ エネルギー温存説はあまり説得力がないと思う。
3. 脳の情報処理と記憶定着のため 説
何かを覚えようとした後、眠らないでいれば 学習能力は壊滅的になる(かなり弱められる) というもの。そのため睡眠と記憶定着もとても重要である。
複雑な問題への新しい解決策を見つける能力は 一晩寝ることで大きく高まる。 事実、3倍も違うと言われている。夜に眠ることで創造性が高まるのである。
脳の中では 神経結合のうち重要なもの、つまり重要なシナプス結合は増強されるが、一方で重要度が低いものは 徐々に結合が弱まり さらに重要性を失っていく。
≪眠るのは怠慢ではない。簡単に理解できるような類のものでもない≫
眠りは かつてエコノミークラスから ビジネスクラスへのアップグレードに例えられていた。 エコノミークラスからファーストクラスではない。ここが肝心なのだが、眠らなければ離陸することはない、つまり 目的地に到達することはない。 今日の多くの社会において際立っているのは、私たちがひどい睡眠不足だということ。
睡眠不足について
社会の大部分が睡眠不足に陥っている。
時代と睡眠時間
1950年代→ ほとんどの人が8時間睡眠
今 → 平均して毎晩6時間半
→ 多くの子ども 学校のある日は5時間 (この年齢で脳がしっかり活動するには9時間の睡眠が必要
→お年寄り 一晩で5時間未満 (お年寄りはまとめて眠る能力が衰えて 何回にも分けて寝ることになる
≪交代勤務の人について≫
たぶん 労働人口の20%が交代勤務だが、体内時計は 夜勤にあわせて 調整されない。
夜勤労働者の場合眠りの質は、通常とても悪くまた5時間くらいだろう。
明暗サイクルは皆同じ
そのため夜勤を終えて家に帰って、どんなに疲れていて日中に眠ろうとしても 体内時計は こう告げる「起きろ。起きる時間だ」
マイクロスリープ
脳がすることの一つ
非自発的に眠りに落ちることで 自分ではコントロールできない
≪マイクロスリープの危険≫
・ドライバーの31%が 一生に一度は運転中に居眠りをする
→ 高速で起こった事故のうち10万件が 疲労や注意散漫 居眠りと関係があると言われている
・チェルノブイリでの悲劇や スペースシャトルチャレンジャー号での 惨劇
→事故後の調査では 過酷な交代制勤務による判断力低下 注意散漫や疲労が 大きな原因とされた
疲れて寝ていないときは 記憶力も創造性も乏しくなり、衝動的に行動しやすくなり、全体的に判断力も鈍る
脳を覚醒させるもの
脳が疲れていたら、覚醒させるものを欲する。ここでドラッグや興奮誘発剤(カフェイン、ニコチン)が出てくる。
上記のものを使い、眠る時間に興奮状態だったら、今度はアルコールを使ってしまう。
これは短期的に ちょっと落ち着くのに使うにはとても便利である。眠りに入りやすくしてくれる。しかし覚えておかないといけないのは、アルコールでは睡眠どころか それに近い状態にもならない。単に落ち着くだけである。むしろ 記憶定着と想起のときに起こる 神経活動を害することもある。
アルコールは短期的な荒療治なのだ。お願いだから毎晩 眠るために アルコールに頼るようにならないでほしい。
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まとめ
・90歳まで生きたとしたら、32年間を眠りに費やしたことになる
→このことから眠りはある程度重要なものであるとわかる
・20世紀、私たちは眠りをほぼ病気のごとく扱った。 眠りを敵とした
→たぶん多くの人は眠りを ある種の治療が必要な病気と捉えている。:寝ている間には 何もしていないように見えるから。
・人が眠っているときであっても、脳は眠らない
場所によっては脳の活動は 睡眠状態にあるときの方がより活発になる。
眠りが起こるのは脳内で様々な相互作用がされた結果である。
・なぜ眠るのか 数十の説があるが、細かいことはさておき おそらく眠る理由は複数ある
眠るのは怠慢ではない。簡単に理解できるような類のものでもない。
・現代では社会全体が睡眠不足の状態にある。60年前よりも睡眠時間は減っている
・疲れて寝ていないときは 記憶力も創造性も乏しくなり、衝動的に行動しやすくなり、全体的に判断力も鈍る
→自動車や、原発など あらゆる事故の原因になりうる。
・脳が疲れていたら、脳を覚醒させるものを欲する。そして眠るときになったらアルコールを使用することにもなる
アルコールでは睡眠どころか それに近い状態にもならない。むしろ 記憶定着と想起のときに起こる 神経活動を害することもある。短期的には荒療治なのである。
おわりに
400年前は睡眠に対して後ろ向きなイメージは持っていなかったけれど、時代と共に意識が変わっていったとは、なんと嘆かわしい。きっと今と比べたら昔の方が、もっとずっと時間に対して穏やかだったのだろうと推察します。
眠るのは怠慢ではない。簡単に理解できるような類のものでもない。というところにはひどく納得しました。簡単に理解できるようなものならば、我々の病気は既に解明され、眠気に怯えない穏やかな生活を既に送っていることでしょう。
sleep is not an indulgence.
It's not some sort of thing that we can take on board rather casually.
眠るのは怠慢ではありません。
簡単に理解できるような類のものでもありません
引用:ラッセル・フォスター: なぜ人は眠るのか? | TED Talk | TED.com
次回
- 睡眠不足の弊害
- ストレスの弊害
- どうすれば十分な睡眠か分かるのだろうか?
- よく眠るためには
- 睡眠の迷信について
- 神経科学の最新研究について【メンタルヘルスと精神疾患、睡眠障害との関係 】
- 研究により得られた成果
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「最近元気?」と聞かれると返答に困る今日この頃です。元気ともいえるし、元気じゃないといえば(日中眠くて) 元気じゃない日々を送っているもので。#ナルコレプシー #返答に困る #元気 #定義 #眠い #過眠 #慢性
— りつ@ナルコレプシー (@rit_narcolepsy) November 30, 2016
眠りに関しては異常側に属する私だけれど、私の存在全てが異端な訳ではない。
— りつ@ナルコレプシー (@rit_narcolepsy) October 8, 2016
反対に、いつも起きていられる あの人にも万人には理解出来ない部分が、きっとある。#ナルコレプシー #異端 #パーソナル #アイデンティティ